2012年3月25日日曜日


■ 健全な食生活における野菜・果物の重要性  その17

野菜等健康食生活協議会事務局 財団法人食生活情報サービスセンター

 

■ 野菜・果物の健康維持機能に関する
研究動向 (3)

 

3. 主な果物の生理機能 (1)

A. カンキツ類

カンキツ機能性成分に関して最近新しく報告されたカンキツ成分の体内動態に関する研究と、がん予防以外の機能について紹介します。

 

(1)キサントフィル類がヒトの脳内で検出された

β-クリプトキサンチンには、培養細胞を使用した実験で神経細胞を活性化する作用を有することがみとめられていますが、このものが脳関門を通過出来るかどうかに関する知見はありませんでした。

Craftらは抗酸化物質が脳内で機能を果たしているかを知るための一環として、ヒト(死体)の脳における抗酸化物質の定量を行いました。

トコフェロール、レチノールなどとともにカロテノイドも検出、β-クリプトキサンチンなどのキサントフィル類の割合が高かったことを報告しています。

β-クリプトキサンチンの抗酸化などの機能が脳内でも発現している可能性が考えられます。

また、ラットではβ-クリプトキサンチンが脳内へ移行する可能性について報告されています。

 

(2) β-クリプトキサンチンが骨髄で検出された

β-クリプトキサンチンには培養細胞での骨代謝改善作用が明らかにされています。

β-クリプトキサンチンが動物の骨髄に入るかは明らかにされていませんでしたが、西尾らは骨随中に検出できることを示しました。

ラットにβ-クリプトキサンチンを投与することで、骨中のカルシウムが高まるなどの結果も含め、このカロテノイドが骨密度の上昇、骨粗鬆症の予防に役立つ可能性が高まりました。

 

(3)フラボノイドの代謝

カンキツの重要なフラボノイドであるヘスペリジンは体内に入った後、配糖体からアグリコンであるヘスペレチンに変換されさらに抱合体となって体外に排出されるとされていました。

松本らは、ヘスペレチンの一部がラット体内でホモエリオディクトールに変換されることを示しており、ヘスペレチンとは異なる機能が期待できると考えられます。

ノビレチンに関しても、ラット投与後に脱メチル化がおこり、何種かの代謝物ができる事が示されており、代謝物は炎症反応の抑制作用がノビレチンより強いことが分かりました。

ヘスペレチンとノビレチンは、PI3-K 経路でIgEによる好塩基球の刺激を抑制します。

ウンシュウミカン(果皮も含む)を摂取は、春先のスギ花粉によるアレルギー鼻炎の軽減に関与しているかもしれません。

 

(4)肥満

肥満は、がんや循環器疾患など多くの病気の危険因子となっています。

適切な食生活と適切な運動で適正な体重を維持するのが理想ですが、抗肥満薬によるコントロールが必要な場合もあります。

抗肥満のサプリメントが多く市販されています。

マオウに含まれるエフェドリンもその一つですが、副作用が問題となり使用が禁止されました。

体重減少の理屈としては、交感神経のβ-3に対する作動薬となり、熱産生が高まり、また食欲を減少させることで体重減少につながるという理屈が受け入れられています。

マオウに代わるものが、ダイダイの果皮抽出物です。

カンキツ類にはシネフリンとその関連物質が含まれており、熱産生作用があると思われることから、マオウの代替となるのではないかと考えられ、米国では多くの製品が販売されています。

ダイダイの果皮抽出物は抗肥満効果が期待できるかどうかについて、また安全性に関して、より多人数による厳密な臨床試験が必要と考えられます。

 

(5)アルツハイマー病

アルツハイマー病は、脳実質にアミロイドβ-ペプチド(Aβ)が蓄積(老人斑)することがきっかけとなり、さらにタウタンパク質が神経細胞に蓄積(神経原線維変化)し、神経が機能不全をおこし細胞死にいたるために認知能力が低下したり、精神症状が現れたりすると考えられています。

アルツハイマーモデルラットにおいて、ノビレチンはAβが惹起する学習障害を予防する効果があります。

また学習障害の改善とともにコリン作動性神経細胞を変性から救う作用があることが見いだされました。

 

B. リンゴ

リンゴ(Malus pumila)はバラ科ナシ亜科に属する果樹で、ヨーロッパでは古くから栽培されていました。

数多くの疫学調査、ヒト介入研究などから、リンゴには生活習慣病予防に効果があると報告されています。

栄養成分が記載されている日本食品標準成分表を見ても他の食品と比べて特徴的な成分は見あたりませんが、抗酸化成分を豊富に含むことが明らかにされています。

 

フィンランドで25年間、疫学調査が行われ、リンゴ摂取は、肺ガンに対する予防効果がきわめて高いことが分かりました。

リンゴを多く食べている人は、食べていない人に比べて、リスクが58%も減少しました。

また、リンゴの摂取は、肺ガンを含むすべてのガンに対しても17%リスク下げると報告されています。

さらに、約1万人の男女を調べた疫学調査から、リンゴの摂取は、脳卒中になるリスクを、男性で41%、女性で39%下げると報告されています。

 

心臓病や脳卒中に対するリンゴの効果も、明らかになってきています。

フィンランドで1967年から28年間、約1万人の男女を調べた疫学調査(コホート研究)から、リンゴの摂取は、脳卒中になるリスクを、男性で41%、女性で39%下げると報告されています。

 

イギリスでは、子供に気管支ぜん息やアトピー性疾患の患者が増加しています。

男性5,582人、女性5,770人を対象に、気管支ぜん息の症状発症と食品の摂取量との関係について疫学調査が行われました。

その結果、生鮮果実を多く摂取していると、気管支ぜん息の症状が軽減されることが分かりました。

この報告を受け、どの食品が気管支ぜん息の予防に役立つかについて、イギリスで気管支ぜん息の患者1,471人と健康な人2,000人を対象に疫学調査が行われました。

その結果、リンゴの摂取量が多いと、気管支ぜん息になるリスクが減ると報告されています。とくに、1週間に2回以上リンゴを摂取していると、気管支ぜん息に罹患するリスクが32%減りました。

 

オランダ・ズフェン地域の住民に対する研究において、気管支炎、肺気腫等の慢性非特異的肺疾患と食生活について25年間(1960〜1985年)にわたって調査した結果、リンゴの摂取(相対危険度0.63)は、これらの発病を抑制する働きが認められました。

 

その他、興味深い研究として、英国で行われた2,512人を対象にした5年間の追跡によるコホート研究で、肺機能(1秒間での強制呼気量)と食品摂取との関係を調査した結果、リンゴを1週間に5個以上食べている人の肺機能が高いことが分かりました。

 

最近、ブラジルで行われた肥満の女性に対する研究からリンゴを摂取すると体重が減ることが分かりました。

BMIが25以上の女性(30〜50歳)に対して1日3個のリンゴを4ヶ月食べてもらったところ、体重が1.22kg減ったと報告されました。

減少量が少ないと感じられるかも知れませんが、カロリーを同じにしたオートムギのクッキーを食べた人より統計的に有意に減少しました。

そのため、著者らは、リンゴの摂取は、体重の減少に寄与すると結論づけています。

 


バナナでどのように多くのカロリー

リンゴはポリフェノールを多く含み、抗酸化活性が高い果物です。

リンゴでは抗酸化成分としてカテキン、エピカテキンやケルセチン配糖体、プロシアニジンなどのポリフェノールが見出されています。

リンゴの抗酸化活性をビタミンC換算すると、リンゴ100gにはビタミンC、1,500mg分に相当する抗酸化活性があることになります。

リンゴ100gに含まれるビタミンCは4mg ですから、リンゴの抗酸化活性のほとんどはポリフェノールに由来します。

 

ラットにリンゴペクチンとポリフェノール高含有リンゴ乾燥物を投与した実験では、これらを単独で投与するよりもペクチンとポリフェノールの両方を同時に投与した方が、血中および肝臓におけるコレステロールと中性脂肪の低下作用が大きかったという結果が出ています。

この結果はリンゴに由来する成分をサプリメントで摂取するよりも、食品として多くの成分を含んだ状態で摂取することが有益であることを支持するものです。

 

C. ブドウ

ブドウは世界でもっとも収穫量の多い果物で、世界各地で幅広く栽培されています。

機能性成分としてはスチルベノイド、アントシアニン、カテキン、ジヒドロフラボノール、フラボノール、プロアントシアニジンが含まれています。

ブドウの機能性研究は、いわゆる「フレンチパラドックス」を契機に大きく進展しました。

これは、フランスでは動物性脂肪の摂取量が他の西欧諸国よりも多いにもかかわらず心臓血管障害による死亡率が低いことに、赤ワインの飲用が寄与しているというものです。

これを受けて、ワインに含まれる成分、特にポリフェノールに着目した機能性研究が行われるようになり、最近のブドウの機能性をめぐる研究では、これらのうち、特にレスベラトロールとプロアントシアニジンが注目されています。

 

果皮に含まれるスチルベノイドの一種であるレスベラトロールは、動脈硬化や発がんの抑制に効果を持つことが示されていますが、これらは、抗酸化作用、一酸化窒素の産生促進、血小板凝集の阻害、HDL-コレステロールの上昇などを通じてのものであると言われています。

これらのメカニズムのいくつかは、炎症反応の抑制を通じて説明できることが示されています。

また、発がん抑制機能については、ヒト膵臓ガン細胞での発がん抑制機能については、抗腫瘍活性を示すマクロファージ阻害性サイトカイン1(MIC-1)の遺伝子発現を上昇させること、ヒト乳ガン細胞においは、乳ガンの発症に重要な役割をはたしているエストロゲン合成系の酵素であるアロマターゼの発現、活性の双方を阻害すること、血管新生を阻害することなど新たな発がん抑制の機構が報告されています。

 

最近、レスベラトロールに生物の寿命をのばすという新たな機能が見いだされ、注目を集めています。

まず酵母にレスベラトロールを与えることで、寿命が70%延びたことが報告されています。

これは、生物の寿命に関係すると言われているテロメアDNAの分解を抑制する酵素Sir2の活性の上昇を通じたもので、線虫の一種やキイロショウジョウバエにおいても同様の現象が確認されています。

Sir2はカロリー制限を行うことで、活性が上昇し、寿命をのばすと言われていますが、高カロリー食を与えたマウスでもレスベラトロールの投与により、過剰なカロリー摂取による有害な作用を防ぎ、寿命を延ばすことが確認されています。

このことは肥満や老化に関連した疾病の治療にも応用できるものと今後の研究の発展が期待されています。

 

一方、種子に含まれるプロアントシアニジンの機能については、これまでにも発がん抑制や、インスリン様の作用、キサンチンオキシダーゼ活性の抑制を通じた血中尿酸レベルの減少が報告されています。

最近では、高濃度のプロアントシアニジンを含むブドウ種子抽出物を中心に、解析が進められ、ラットの肝細胞においてアルコール性傷害を抑制することが報告されています。

また、生体内で発生する活性酸素種の消去作用によりβ-アミロイドにより誘導される細胞死を抑制することが、ラットの培養細胞を用いた実験で明らかにされています。

また骨代謝の改善に関する研究や、アレルギー抑制に関する研究、肝斑の抑制に関する研究も進められています。

 

このように多様な機能の解明が進みつつあるブドウのポリフェノールですが、栄養疫学調査の結果では、フランス人が果実類、野菜類から摂取するポリフェノールの供給源として、ブドウがリンゴ、イチゴに続く重要な位置にあることが報告されています。

また、米国で市販されている1,000種類以上の食品を対象とした抗酸化活性の調査において、ブドウジュースが標準的な1回の摂取量あたりの抗酸化活性で第10位であったと報告されています。

 

また、ブドウやブドウの加工品の摂取についても、その効果の検討が進められています。

認知症を伴わない高齢者の記憶力の低下について、ブドウ果汁を用いて、無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験で、改善効果の評価が行われています。

コンコード種のブドウ果汁を12週間飲用したグループでは、外見や香味およびカロリーをブドウ果汁と同じように調製したプラセボを飲用したグループに比べて、言語記憶の低下が改善されたことが報告されています。

 

干しブドウには、オレアノール酸などのトリテルペン誘導体が含まれ、口腔内で虫歯や歯周病の原因となる病原菌の生育を抑制することが示されています。

しかしながら、干しブドウのように糖質を多くみ、歯への付着性が高い食品は虫歯を誘発する要因となることも指摘されています。

ヒトの歯垢のpH変化の調査から、干しブドウを食べることにより酸が生成することが示されています。

うしょくの発生は、歯の表面に付着した食物の残渣に含まれる糖質が歯垢に存在するバクテリアに分解され、酸を生成することで、pHが5.5より低くなった場合に、歯のエナメル質から、リンやカルシウムが溶け出すことによるものです。

7歳から11歳の子供20名が参加したランダム化比較交差試験の結果から、干しブドウを単独で摂取する場合、ブランフレークと一緒に摂取する場合のいずれにもいても、摂取後30分以内には歯垢のpHは6を下回らなかったことが示されています。

 

果実類は糖含量が高いもののグリセミックインデックス(GI)が低いことが知られています。

低GI値食品の摂取量が多いとインスリン抵抗性リスクが低かったとする結果も報告されています。

最近、ある種の脱アルコールワインの継続的な摂取が、U型糖尿病患者の血中インスリンレベルに影響を及ぼすことがヒトを対象とした介入試験で明らかにされています。

夕食後にマスカディングレープの脱アルコールワイン150mlの飲用を28日間継続したグループでは、空腹時の血中インスリンレベルの低下が認められています。

また空腹時の糖-インスリン比はこの期間に8.5から13.1に増加しています。

この結果は、ブドウやブドウの加工品がインスリン反応の異常の改善に寄与する可能性が示されてものであり、今後の研究の展開が期待されます。

 

また、米国に在住する約35,000人の高齢女性を対象とした疫学調査の結果、フラバノンとアントシアニジンを含む食品の摂取と、心臓血管障害の発症率の間に相関関係が認められ、特にワインの摂取が、冠動脈性心疾患のリスクを低下させたことが示されています。

ワインの種類や製造法方法により、含まれるポリフェノールの量は変動します。

例えば、ブドウ果実の部位で最もポリフェノール含量が高いのは、果皮、種子、果梗枝ですが、赤ワインの製造工程で、こられの部位との接触が長くなるほどポリフェノール含量が増加し、多いものでは、白ワインの10倍にも達します。


どのような食品ででんぷん粉を持っている

赤ワインは白ワインやブドウジュースよりも機能性の点で優れることされていますが、これはこのようなポリフェノール含量の差に基づくものです。

 

ブドウの機能性研究の進展には業界団体の一つであるカリフォルニアブドウ協会(California Table Grape commission)も大きな役割を果たしています。

同協会はブドウの機能性について研究を行う研究者に資金を提供しただけではなく、機能性研究の材料として、標準化したブドウ粉末を調製して、研究者に提供しました。

これまでに30件を越える研究課題に資金と研究材料の提供が行われいくつかの新しい有用な知見も生まれています。

このような研究推進のスタイルは農産物の機能研究を進める上で一つのモデルとなるものでしょう。

 

D. ニホンナシ

ナシに多く含まれている無機成分はカリウムで、ナトリウムはほとんど含まれていません。そのため、カリウムとナトリウムの比が低く、高血圧予防に有効です。またナシにはソルビトールが果肉100gあたりおよそ0.8g含まれており、果物の中でも特に多く含まれています。ソルビトールは、低カロリーであり虫歯になりにくい糖質として知られています。

 

一方、がんや循環器系疾患と栄養との関わりを長期間に渡り追跡調査している米国の保健医療職従事を対象にしたハーバード大学の大規模コホート研究の中で興味深い結果が最近報告されました。

この研究では、83,104名の女性について歯の健康状態と食行動を調べ心疾患発症とどのような関わりがあるかを解析しています。

その結果、健康な歯の少ない女性ほど心疾患発症のリスクが高く、食行動においては飽和脂肪酸やコレステロールの摂取量が多く、逆に不飽和脂肪酸や食物繊維、カロテン、ビタミンC、ビタミンE、葉酸、カリウム、果物、野菜の摂取量が少なかったとしています。

特に健康な歯が少ない女性ほど心疾患リスクが高くなる食行動に変化する傾向があり、ナシやリンゴ、生のニンジンなど堅い食品を避ける傾向にあったと報告しています。

 

また最近、がんとの関係を考察した疫学研究の結果も報告されました。

果物・野菜の摂取と頭頸部扁平上皮がんとの関連について約49万人を対象に調べた大規模な米国の疫学調査では、ナシを含むリンゴやモモ等のバラ科果物の摂取量が最も多いグループではリスクが0.6まで低下していました。

調査対象者が最も高頻度に摂取しているバラ科の果物ではリンゴが最も多いですが大きいですが、トータルとして果物・野菜を多く摂取することが重要と述べています。

更にナシ・リンゴを豊富に取り入れた食事の介入試験から、12週間で約1.22 kgの体重減少が認められたとする報告もあります。

ナシやリンゴなどの食物繊維の豊富な果物がダイエットに有効かについては同じ研究グループでその後も検討され、同じ食物繊維量・同じカロリー量になるようにしたリンゴ・ナシ・えん麦クッキーの3種類の食品を、ブラジル人の肥満女性(BMIが25以上)に10週間介入した結果が最近報告されました。

その結果、ナシとリンゴを介入した群では一日当たりの総摂取カロリーがそれぞれ25.1kcal、19.7kcal減少し、体重もリンゴ介入群で0.93kg、ナシ介入群で0.84kg減少したと報告しています。

一方、えん麦クッキー介入群ではこれらの効果は全く認められなかったとしています。

この結果から、食物繊維が豊富で重量当たりのカロリーが低いナシやリンゴはダイエットに有効としています。

 

また、ナシやリンゴの果皮と果肉について、in vitroレベルでの抗酸化能とコレステロール負荷したラットの血中脂質や血中抗酸化能改善効果を評価した研究では、ナシの果皮はリンゴの果肉と同程度の活性を有していること、これらの抗酸化活性にはポリフェノールの関与が大きいことを示しています。

 

E. モモ

モモにはビタミン以外にもナイアシンや食物繊維が豊富に含まれています。

ナイアシンは生体内の酸化還元反応に関与しており、欠乏するとペラグラ(皮膚障害、消化器障害、精神神経障害を起こす病気)になります。

また、水溶性食物繊維であるペクチンも多く含んでおり、コレステロール正常化作用や腸内細菌叢改善作用があります。

また最近、モモを含むリンゴやオレンジなど9種類の果実ジュースについて、これら果実を摂取した後の血清抗酸化能をヒトで検討した結果が報告されています。

その結果、ナシ以外の果実では摂取後90分まで血清抗酸化能が維持されたとしています。

 

また興味深い研究として、Leeらはモモのエタノール抽出物がシスプラチン誘発性の肝障害を抑制することを報告しています。

シスプラチンは抗ガン剤として広く用いられていますが、ラジカルを発生するためにその副作用として肝機能障害が問題となります。

モモ抽出物を投与したマウスでは肝機能障害の指標となる血中トランスアミナーゼ値や過酸化脂質の上昇を抑制したとしています。

このことからシスプラチによる化学療法を受けているがん患者の肝臓保護にモモが有効かもしれないと述べています。

またモモの水抽出物をラットに投与すると脳でのコリンエステラーゼ活性が阻害され、アルツハイマー型認知症の治療に有効かもしれないとする報告もあります。

 

また最近、疫学研究の結果も報告されました。

果物・野菜の摂取と頭頸部扁平上皮がんとの関連について約49万人を対象に調べた大規模な米国の疫学調査では、モモを含むリンゴやナシ等のバラ科果物の摂取量が最も多いグループではリスクが0.6まで低下していました。

調査対象者が最も高頻度に摂取しているバラ科の果物ではリンゴが最も多いですが大きいですが、トータルとして果物・野菜を多く摂取することが重要と述べています。

最近では幾つかの培養がん細胞を用いた実験においても、モモエキスにがん細胞の増殖抑制効果認められました。

これらの作用はモモエキス中のポリフェノール画分に強く認められましたが、アントシアニン以外のポリフェノール物質が関与しているものと考えられています。

最近、Norattoらは乳がん樹立細胞を用いた実験から、モモエキスの中でも特にフラボノイド画分から得られたケルセチン-3β-グルコシドに強い活性を見出しています。

 

F. ネクタリン

ネクタリン(Prunus percica var. nucipercica)はモモ(Prunus percica)の変種で、果皮に柔毛が無く、表面がつるつるしています。

そのため、別名としてモモを毛桃、ネクタリンを油桃(ゆとう)とも呼びます。

 

ネクタリンには果肉が黄色の品種と白色の品種があります。

果肉の黄色はカロテノイドに由来し、カロテノイドは黄肉品種の方に多く含まれます。

主たるカロテノイドはβ-カロテンとβ-クリプトキサンチンで、α-カロテンは一部の品種にのみ含まれています。

β-クリプトキサンチンはウンシュウミカンに多く含まれる抗酸化成分で、様々な健康機能性があることで注目されている成分ですが、ネクタリンは中晩生柑橘が終わりハウスミカンが出回る時期までの間の初夏の時期のβ-クリプトキサンチン摂取源になります。

 

ネクタリンのポリフェノール含量や抗酸化活性については、カロテノイド含量のように白肉品種と黄肉品種の間には明確な品種間差はありませんが、ポリフェノール高含有で抗酸化活性が高い品種は白肉品種と黄肉品種の両方に存在し、品種間差がみられます。

ネクタリンに含まれるポリフェノールとして、ヒドロキシ桂皮酸誘導体、フラバン-3-オール(いわゆる、カテキン類)、フラボノール、アントシアニンが見出されています。


バナナでどのように多くのカロリーです。

ヒドロキシ桂皮酸誘導体にはクロロゲン酸(3-O-カフェオイルキナ酸)とネオクロロゲン酸(5-O-カフェオイルキナ酸)、フラバン-3-オールにはカテキン・エピカテキンと二量体のプロシアニジンB1、フラボノールにはケルセチン-3-ガラクトシド(ケルセチンのガラクトース配糖体)、アントシアニンにはシアニジン-3-グルコシド(シアニジンのグルコース配糖体)が主たる成分として存在しています。

 

ネクタリンはビタミンE(α-トコフェロール)を豊富に含み、含量は新鮮重100gあたり1.4mgです。

ビタミンEは脂溶性の抗酸化ビタミンで、主に生体膜が活性酸素により酸化障害を受けるのを防ぐ働きがあります。

 

以上のように、ネクタリンは抗酸化成分が多様に含まれている果物です。

 

G. オウトウ(サクランボ)

オウトウ(桜桃)はバラ科サクラ属の果樹で、栽培種として広く世界に普及しているのは甘果オウトウ(セイヨウミザクラ、Prunus avium)と酸果オウトウ(スミノミザクラ、Prunus cerasus)の2種です。

これ以外に中国ではカラミザクラ(Prunus pauciflora)とシロバナカラミザクラ(Prunus pseudocerasus)が固有の栽培種として存在し、これらは中国オウトウとも呼ばれます。

 

甘果オウトウはスイートチェリー(sweet cherry)とも呼ばれ、甘味が強く、酸味が少ないため、主に生食用にされます。酸果オウトウはサワーチェリー(sour cherry)とも呼ばれ、酸味が強く、生食に不適なため、加工用にされます。

海外でジャムや果汁加工向けに栽培されているタルトチェリー(tart cherry)は酸果オウトウの品種です。

 

国内で生産されているサクランボあるいは輸入されているアメリカンチェリーは甘果オウトウに属します。

甘果オウトウには、果肉色が乳白色の白肉種と、赤色から暗赤色の赤肉種があります。

日本で栽培されている品種のほとんどは白肉種ですが、世界的に生産量が多いのは赤肉種です。

 

オウトウの果皮や赤肉の赤色はアントシアニンに由来します。主たる成分はシアニジンの配糖体であるシアニジン-3-O-ルチノシドで、次いで多いのが、シアニジン-3-O-グルコシドです。

これらはBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)やビタミンEなどの市販の抗酸化剤に匹敵する抗酸化能を有しています。

これらの成分を含むオウトウ抽出物が、プロスタグランジン生合成系の酵素の一つで、炎症や発がんに関与するシクロオキシゲナーゼの活性を抑制すること、さらに、活性酸素を生成しDNAを損傷する等の有害な働きをする過酸化脂質の生成を抑制することが示されています。

 

タルトチェリーはオウトウの中ではアントシアニン含量が最も高く、それを反映して高い抗酸化能もあります。

このような果実からアントシアニンを抽出物として摂取するのではなく、食品として摂取しても健康機能性が発揮されることが動物実験レベルで示されています。

Seymourらは、ラットに凍結乾燥したタルトチェリーを飼料として摂取させる実験で、タルトチェリー摂取で脂質代謝に関連する核内受容体のPPARsの働きが高まり、高脂血症や脂肪肝の症状が軽減されることを示しています。

 

オウトウから摂取した抗酸化成分がヒト体内でも活性を発揮する事例が報告されています。

Traustadóttirらはヒト介入試験により、70歳前後の高齢男女にタルトチェリーのジュースを摂取させ、被験者の血清成分を分析し、タルトチェリーのジュース摂取が酸化ストレスを軽減することを示しています。

 

アントシアニンには抗炎症作用があります。

激しい運動をすると筋肉が部分的に損傷し炎症を起こした状態になり、痛み(筋肉痛)を伴います。Connollyらはヒト介入試験により、タルトチェリーのジュースを摂取することで、被験者に激しい運動の負荷をかけても、筋肉の損傷を示す症状が軽減される結果を出しています。

 

アントシアニン以外でオウトウに多い成分として糖アルコールのソルビトールがあります。

オウトウの糖アルコール含量は新鮮重100gあたり2.3〜8.0gと豊富です。

ソルビトールは難消化性で糖質より低カロリーな甘味成分で、さらに、便秘を解消する効果があることがヒト介入試験により示されています。

 

メラトニンは脳から分泌されるホルモンの一つで、睡眠と関連していることが知られています。

メラトニンは植物体にも存在する抗酸化物質でもあり、食品としてはアーモンド、ヒマワリ、カラシ等の種実類に多く含まれています。

果実類ではオウトウのタルトチェリーがメラトニンを多く含みます。

 

H. ウメ

ウメは酸味が強いことと、生の果実では青酸配糖体が含まれることから、生食されることはほとんどなく、大部分が加工食品として利用されます。

加工品の代表として梅干があり、その他、梅酒、ジュース、梅肉エキス、ジャム、ゼリーなどが作られています。

酸味はクエン酸とリンゴ酸を主体とする有機酸で4〜6%含まれていますが、それ以外にウメの栄養成分として取り立てて含量の高いものはありません。

 

未熟果を燻製にしたものを烏梅(ウバイ)と称し古来より薬用とします。

何種類かの薬用とする果実の活性酸素除去作用を調べた例では、ウメ果実の水抽出エキスにもっとも強い除去作用が認められました。

また、烏梅の水抽出物が試験管内の実験で、炎症の発現の原因となるプロスタグランジンE2や一酸化窒素の合成酵素の働きを抑えたり、これら酵素の遺伝子発現を低下させたりすることが見いだされています。

 

核内タンパク質の一つであるHMGB1は最近の研究から、炎症反応や細胞遊走を促進することで、炎症の転移を媒介する重要な因子であることが示され、自己免疫疾患やガン等の分野で注目を集めています。

HMGB1が病変組織から他の部位へ移動するために細胞外に放出されるのは、壊死を起こした細胞の核内から受動的に放出される場合と、活性化されたマクロファージや血小板などから能動的に分泌される場合があります。

培養細胞を用いた実験で、梅肉エキスがマクロファージからのHMGB1の放出を抑制することが見いだされています。

梅肉エキスにはトリテルペノイドの一つであるオレアノール酸が含まれることが知られていますが、オレアノール酸にもこの作用は認められ、炎症の抑制剤としての利用が期待されています。

 

変異原物質にさらされたときに細胞はいろいろな反応を示しますが、ウメに含まれるクエン酸のメチルエステルに強い反応抑制がみられ、細胞の障害を抑制するのではないかと考えらます。

食事中に含まれる亜硝酸とアミンが、胃において発がん性のニトロソアミンの生成に関わることが知られています。

亜硝酸とアミンの多い食べ物にウメ抽出物を組み合わせると、ニトロソアミンの生成が減るという報告があります。

 

また、実験動物でウメジュースの摂取により胃のピロリ菌が減少することが既に報告されていましたが、ヒトでの検討も行われていますが、1%の梅肉エキス130mlを12週間飲用する実験では、ピロリ菌の減少は確認されませんでした。

ヒトでの有用性を実証するには更に詳細な検討が必要となるでしょう。

一方、ピロリ菌の抑制に関しては、どのような成分が関与しているかについての検討も行われ、未熟なウメ果実に含まれるリグナンの一種であるシリンガレシノールがピロリ菌の運動を抑制することが報告されています。

 

また、ウメ果実に含まれるクマリン誘導体や、梅肉エキスの脂溶性画分, が試験管内で培養したがん細胞に対して増殖抑制効果を持つことが報告されています。

 


梅肉エキス(濃縮ウメジュース)には、試験管内実験でアンジオテンシンによる動脈平滑筋増殖を抑える作用があり、血管保護効果を持つ可能性があります。

 

ウメではありませんが同じ仲間のアーモンドの果皮が、ビタミンE、Cとの相乗作用で、LDLの抗酸化能力を高めることが試験管内実験で示されています。

フラボノイドがその作用はカテキン類、フラボノール類によるとしています。

肥満モデルラットやU型糖尿病モデルラットによる実験では、梅肉エキスに高血糖・脂質低下作用があることが示されています。

脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンなど善玉成分が増加するためとしています。

また、ウメに含まれるクロロゲン酸が、コレステロール合成系に含まれるスクワレンシンターゼを阻害することが報告されています。

高コレステロール血症の場合にはこの酵素の抑制により、血漿コレステロール値、中性脂肪値の低下が期待されます。

 

梅肉エキスとコハク酸二ナトリウム、ソルビタンモノオレエートを一定の割合で配合した製剤がラットを用いた実験で、記憶改善および学習能力を向上させ、抗うつ剤の効果を増強することが報告されていますが、そのメカニズムや梅肉エキス中の特定の化合物の関与などについては明確にはされていません。

 

梅肉エキスについては、ラットを使った実験で運動後の疲労を緩和することも見いだされています。

梅肉エキスを含む飼料で4週間飼育したラットは対照区に比べて運動負荷を与えた後の血中のアンモニア濃度および乳酸濃度が有意に低下していました。

また、肝臓及び筋肉中のグリコーゲン濃度の上昇、骨格筋における乳酸脱水素酵素の活性の低下、クエン酸合成酵素の活性の上昇などが認められています。

これらのことから梅肉エキスを投与したラットでは、骨格筋の酸化能力が増強し、アミノ酸や炭水化物よりも脂肪酸の酸化が優先されるようになっていると推測されています。

 

また、試験管内の実験ですが、梅肉エキスがA型インフルエンザウイルスの感染を抑制するのではないかという結果が示されています。

これは、梅肉エキスによりインフルエンザウイルスが細胞に付着するのが抑制されるというもので、ウイルスと細胞の結合を妨害するするレクチン様の物質が梅肉エキスに含まれているためではないかと推察されています。

 

濃縮ウメジュースにはムメフラールという成分が含まれおり,クエン酸やリンゴ酸とともに血液の粘性を下げ、血を流れやすくする働きがあります。

 

I. カキ

カキにはタンニンが豊富に含まれており、これらは抗酸化能を有することから様々な生理機能に関する研究が行われています。

カキの実には解熱・鎮痛・抗炎症効果、コレステロールの低下作用、また脳卒中易発高血圧ラットにおける延命効果と脳における脂質過酸化抑制が報告されています。

 

アスコルビン酸合成能欠如(ODS)ラットに紫外線を照射すると、皮膚や肝臓での過酸化脂質量が増加しますが、あらかじめカキ粉末エキスを投与したラットではこれら組織における過酸化脂質量が有意に減少し、抗酸化システム系酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼも肝臓で増加することが報告されています。これらの結果から、カキは皮膚や肝臓における酸化ストレスに対して有効と考えられます。

一方、柿に含まれる有効成分としてフラボノイドに着目し、ヒトリンパ芽細胞に対するカキフラボノイドのアポトーシス誘導作用が報告されています。

 

また、カキに多く含まれているフラボノイドが多数結合してできた縮合型タンニンとして知られるプロアントシアニジンについて、近年様々な生理活性が報告されています。

Leeらは柿の果皮から抽出したプロアントシアニジンが糖尿病モデルラットの血糖値を下げ、また腎臓中や血中における酸化ストレスを緩和すること、更には炎症反応系を抑えることを見いだし、柿のプロアントシアニジンが糖尿病状態における酸化ストレスに対して有効であると報告しています。

 

同様にLeeらのグループは肥満U型糖尿病モデルであるdb/dbマウスを用いた実験においても、プロアントシアニンジンが血中脂質の低下作用、血糖値の低下作用、及び酸化ストレスによる肝臓の炎症反応系を抑制する作用を有すること、これらの作用はポリマータイプよりもオリゴマータイプのプロアントシアニジンにその効果が高いことを明らかにしました。

またこのグループは、ヒト繊維芽細胞TIG-1に過酸化水素を負荷することで誘発されるDNAの酸化障害をプロアントシアニジンが抑制することを報告しています。

同様の研究として、Yokozawaらは、培養細胞を用いた系で高グルコース負荷によって誘導される酸化ストレスを柿果皮中のポリフェノールが抑制することを報告しています。

またKimらはメラノーマB16細胞を用いた培養細胞実験から、プロアントシアニジンが酸化ストレスを軽減することでメラニンの生成を抑制することも報告しています。

 

最近、幼若果と成熟果で血清脂質に及ぼす影響を比較検討した研究も報告されました。

幼若果を10%添加した高脂肪食を摂取したマウスでは、血中総コレステロール、中性脂肪、LDLコレステロールの有意な低下が認められ、このような作用は成熟果では認められなかったと報告しています。

この研究ではコレステロールの生合成に関与する酵素の遺伝子発現レベルが亢進していること、またコレステロールの吸収に影響する胆汁酸の合成酵素の遺伝子発現レベルも亢進していたと報告しています。

 

また、カキの葉は古くから漢方として用いられてきており、様々な生理活性物質が存在することが考えられます。

近年では、柿の葉に抗アレルギー効果のあることが明らかとなっており、これらの効果は柿フラボノイドであるastragalinによるものであることが明らかになっています。

その他にも血小板凝集抑制効果、神経細胞由来NG108-15細胞における過酸化水素誘発性細胞死に対する軽減効果などが報告されています。

また最近、カキの葉にも高脂肪食負荷ラットでの脂質代謝を改善する作用の有ることが明らかとなりました。

この研究ではカキの葉粉末を摂取させた群では、対照群に比べて、有意な血中レプチン(食欲と代謝の調節をするホルモン)濃度の上昇と、体重・脂肪組織重量の低下が認められたとしています。

 

最近、疫学研究でカキの摂取量について着目した結果が報告されました。

脂質過酸化反応の最終産物であるisoprostaneの一種、8-iso-prostaglandin F2α(8-iso-PGF2α)は近年アテローム性動脈硬化や冠動脈性心疾患のリスクになることが明らかにされていますが、果物の摂取量と8-iso-PGF2αとの関連を解析したところ、カンキツ類と同様にカキの摂取量も血中8-iso-PGF2α濃度と有意に逆相関することが認められました。

このことから、カキは生体内の酸化ストレスに対して防御的に働き、循環器系疾患の予防に有効である可能性が示唆されました。

 

また、古くから熱冷ましに用いられていたカキですが、実際にヒトに投与したときに体表温度が下がることも報告されています。



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